人間は機械である――過激な主張が、生きづらさを抱える現代人を救う!

ある意味、これは「禁断の書」ともいえるでしょう。

読む前と後とでは、人生観が大きく変わってしまうかもしれません。

『トム・ソーヤーの冒険』などで有名なマーク・トウェインが匿名で書くしかなかったこの本の教えは、およそ私たちの常識とは180度異なっているからです。


この本の前半では、「人間の行為はすべて自己満足である」と説かれます。

どんなに美しい慈善行為も、母親がわが子を守るのも、つきつめれば自己満足なのだというのです。

この本は、青年経営者と、彼を教え導く老人との会話形式で進んでいきます。

ある日、暖を求める老婆にお金を恵んだ青年に、老人はこう言い放ちます。

「人の善意は自動作用にすぎない」と。


人間とは機械のようなものであり、環境や教育などが人間に働きかけた結果、人が「自動的に」何かしらの行動に出ているだけ、だと老人は主張するのです。

つまり人間に自由意志などないといってるわけですね。

トウェインは非常に醒めた、冷徹ともいえる人間観をこの本で語っているわけです。


この人間観からは、たとえアメリカ建国の英雄といえども逃れられません。

老人は言います。「アメリカ建国の父」アレクザンダー・ハミルトンの死も自己満足によるものだと。

ハミルトンは政治的ライバルとの決闘で胸を撃たれてしまい、翌日に亡くなっています。

これはハミルトンが、家族愛よりも社会の称賛を求めた結果だと老人は説きます。

名誉を求めるほうが、ハミルトンは自己満足を得られる人間だったからです。


人は誰もが、自己満足の絶対的奴隷。

この事実からは誰も逃れられない、というのが、老人の人間観なのです。

一見尊敬すべき慈善家や社会事業家も、あくまで教育の結果そのような人間になっただけ。

彼らもまた自己満足のため、自動的に社会のためになる活動をしているのです。

自己満足だけが、人間の原動力。人は自己満足を得るために自動的に動く機械にすぎない。

そんな身も蓋もない「事実」を聞かされることで、私たちは一体、何を得るのでしょうか。


この本は最終章で、おもしろい展開を見せます。

いくら一生懸命働いても、それも自動作用、自己満足にすぎない……と落ち込む青年に、老人は説きます。

「自分の無力さを知ったとき、人は他者にも自分にも寛容になれるのだ」と。

人に自由意志がないのなら、人が自分自身で成し遂げたことなど何一つありません。

ということは、成功者はその成功を自慢する資格はなく、逆に落伍者も失敗していることを恥じる必要もないのです。

すべては自動的にそうなっただけなのですから。


それにしても、マーク・トウェインのこの考え方は、彼のヒューマンな作風と一見似つかわしくないように思えます。

ですが、案外そうでないかもしれません。

人間は自由意志なき機械にすぎない、というこの考え方は、どちらかというと弱者に優しいものだと思います。

「未来は自分の意志や努力で切り開くもの」という前提に立つと、今恵まれない人は努力をしなかった怠け者ということになってしまいます。

トウェインの考え方なら、成功者も落伍者も、ただ環境に反応して自動的に行動しただけ。

この視点から、敗者を責める言葉は出てこないでしょう。

この本では、アメリカの植民地支配を批判したり、ヘレン・ケラーを支援したりと、マーク・トウェインがつねに弱者の味方だったことが語られています。

「人間は機械である」というこの論も、弱者を許すためのものだったのかもしれませんね。


自由意志を全否定するこの本は、誰にでも受け入れやすいものとはいえません。

強い拒否感が出ても当然ですし、そういう人は自由意志の存在を信じて生きていけばいいのだと思います。

ですが、この本の内容は、ある種の人には救いをもたらすものかもしれません。

あの時ああしていれば、過去にもっと賢い選択ができたはず……と後悔している人にとっては、「すべては決まっていた」と考えることで、心が楽になることはあり得るのではないでしょうか?


この本のエピローグでも描かれているとおり、現代はネットの発達で、自分より成功している人の情報がつねに入ってくる時代になっています。

自分と他者を比較してしまい、そのままの自分を受け入れにくくなっているのです。

ですが、「こうなるしかなかった」という諦観をもつことで、そのままの自分を認め、受け入れることができるかもしれません。

ちょっと変わった考え方であっても、取り入れることで救われるのなら、それが一番いいのではないでしょうか。

『人間とは何か?』は、万人向けとはいえませんが、今の自分を受け入れやすくしてくれる可能性を持つ、刺激的な一冊といえます。

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