平易な言葉で哲学を学べて、あなたの悩みが解決する1冊です。

悩み相談から知る哲学者の思想

『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』の内容は、「会社を辞めたいが辞められない」「ダイエットが続かない」「やりたいことがない」など、身近な悩みに古今の哲学者が答える、というものです。

それぞれの哲学者の回答には、実際に役立ちそうなものもあれば、そうでないものもあります。

悩み解決の本としてなら、これよりも役立ちそうな本はたくさんあるので、いろいろな問題に対して「この哲学者ならこう考える」を知るための本として読むのがいいでしょう。

つまり、悩み相談の体裁をとった哲学入門書というわけです。

承認欲求を真に満足させるためには?

ネット社会の成熟は、私たちの生活を以前よりはるかに便利にしました。

いっぽうで、人の承認欲求は過剰に刺激されつづけています。「いいね」を大量に集められる成功者・人気者の姿を日々みせつけられるので、つい自分もそうなりたい、と思わされるのです。

尽きることのない承認欲求を、真に満足させる方法はあるのでしょうか?この本では、「他人からチヤホヤされたい」という欲求に対し、ジャック・ラカンの答えを紹介しています。

ラカンにいわせれば、承認欲求を十分に満足させるには、「大文字の他者」に認められる必要があるのだそうです。

大文字の他者とは象徴的な大きな他者、神様のような存在のことです。

神さまといわれても現代の日本人にはあまりピンとこないところがありますが、「大文字の他者」は、「いつか自作を理解してくれる1000年後の人」などでもよいと書いてあります。

この回答、正直私にはかなり迂遠に思えますし、もっと現実的な答えのほうがいいのでは……という気もします。

「いつか理解してくれるであろう誰か」のために努力し続けるのは、凡人の私には難しそうに思えます。

この本は、あくまで「こんな考え方もある」というくらいの気持ちで読むものなんでしょうね。

外見的コンプレックスを克服する方法

この本では、外見的コンプレックスに対処する方法として、サルトルの実存哲学を紹介しています。

サルトル哲学には「実存は本質に先立つ」という有名なフレーズがあります。

これは、「人間は所与の自分を否定し、どんなふうにでも生きることができる」という意味です。

たとえ外見が美しくなかったとしても、それを自分の本質と考える必要はありません。サルトルは背も小さく、強度の斜視でしたが、知力を磨き、哲学者サルトルとして生まれ直しました。実存は、自由に決めることができるのです。

正しい意志と努力があれば、生まれつきの外見がどうであれ、別の実存を獲得できる。肉体を鍛えたり服のセンスを磨けば、美しい人間にすらなれる──というこの本のアドバイスは、一見なるほどと思えるものです。

ですが、「顔がよくないなら知力やファッションセンスを磨いてモテよう」という通俗的なアドバイスを哲学風に言ってみただけ、という気もします。

とはいえ、「自分のありようは自分で自由に決めていい」というアドバイスは希望をもたらすものではありますし、事実サルトルも美女として有名だったボーヴォワールと付き合うことができたので、自分を変えられる可能性はつねに意識しておきたいものです。

退屈な毎日から抜け出すには

「やりたいことがない」という悩みにこたえてくれるのは曹洞宗の開祖、道元禅師です。

来る日も来る日も同じことの繰り返し、日々生きてる実感がない……という人に対して、この本は道元の「些事、雑事こそ悟りに至る修行」という考えを紹介しています。

掃除であれ歯磨きであれ、雑事に徹底的に集中していくとしだいに自意識が小さくなっていき、「主客未分」(=自分と対照が解け合わさっていくような感覚)になっていく、という効果があります。

今風にいえばマインドフルネス、でしょうか。

よけいなことを考えず、ひたすら手を動かす「動く座禅」をくり返すことで、禅のいう「心身脱落(自分を忘れること)」の境地に近づくことができる。

面倒な作業も徹底的に、無心におこなうことで、生活すべてを禅にすることができる──という教えが、ここでは説かれています。

ちょっとストイックすぎる気もしますが、幸福学もここに在ること、マインドフルネスを幸福になる方法として挙げているので、これは案外実践的な回答かもしれませんね。

悩み解決のためよりは、哲学入門書として読む本

今まで見てきたとおり、『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』における哲学者の回答は、必ずしも役立ちそうなものばかりではありません。

私は俗物にすぎないので、この本の回答には「そんなことよりもっと実践的な方法を教えてくれよ」と思うことが何度もありました。

この本は、すぐに役立ちそうな、インスタントな解決法を教えてくれるものではないのでしょうね。

それより、もっと深遠なものの見方、考え方を教えてくれる本なのです。

悩みを解決するよりも、古今の哲学者の思想をつまみ食いするために読むのがいいかもしれません。

巻末には参考文献もたくさん載っているので、この本を入り口にさまざまな哲学書に挑戦してみるのもいいかと思います。


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