日本史は暗記科目じゃない!天皇、土地、宗教、軍事、地域、女性、経済。七つのツボを押さえれば、日本史の流れが一気につかめる。最もコンパクトな日本通史、登場。

天皇・土地・宗教・軍事・地域・女性・経済の7つの「ツボ」で日本史を大づかみに理解するのに役立つ一冊。テレビでおなじみの本郷和人さんが、日本史の流れをわかりやすく解説してくれています。7つの章はどこからでも読めるので興味のある所から読めばいいですが、日本史を理解するうえでは特に土地と経済の章が重要と感じました。ここをおさえることで、日本史、特に武士という存在について「わかる」ようになると思います。

武士のなりたちを知るうえで「土地」の理解は欠かせない

全七章の中でも、「土地」についての章は特に重要と感じました。この章を読むことで、なぜ武士という存在が生まれたのかがよくわかるからです。

武士というものを考えるうえで、まず荘園について知る必要があります。この章では荘園のことを「口利きの体系」と表現しています。「公地公民の」建前上、すべての土地は国のものです。このため、土地を開墾する開発領主は、土地を国司から守るためにより強い立場の貴族や自社に保護を求めます。ここで「土地を寄進」することになりますが、寄進することで国司に手を引くよう「口利きを依頼」するのです。こうして、土地を管理する下司職の上に寺社や貴族などの領家や本家が位置する「職」の体系が成立しました。

しかし、領家や本家は京に住んでいるので、本当に荘園を守ってくれるかどうかが不安です。本気で開墾した土地を守りたいなら、自衛するしかありません。このために開発領主が武装したのが武士だとこの章では解説されます。荘園が他の勢力に侵害されたなら、乗馬や弓矢の技術を身につける必要があったのです。

しかし、武士が誕生しても「職の体系」はまだ存在しているので、武士は自分たちを守ってくれる上級権力を必要としていました。そこで武士代表として選ばれたのが頼朝だ、というのが本郷さんの考えです。自分たちの側に立ち、いざとなれば武力行使も辞さない武士の代表が頼朝だったのです。こう見てくると、なぜ鎌倉幕府が関東に成立したのかがよくわかります。

土地はどれくらいの収入を生むのか?

鎌倉幕府は開発領主=武士の土地を守るために生まれたわけですが、土地はどれくらいの価値を生んだのでしょうか。この本の経済の章を読むと、鎌倉御家人は最低200町くらいの田地を持っていたと計算しています。ここから生まれる収入は年収2000万くらいです。

それなりの高収入に思えますが、天皇家の荘園群では200億円程度の収入があります。京では中級の貴族でも年2億円ぐらいの収入がありました。東国と京とではこれくらいの経済格差があったのです。

本郷さんはここに、足利尊氏が京に幕府を開いた理由を見出します。京は東国とは比較にならない規模の経済が動いているため、ここに基盤を置かないと政権運営ができないと考えたのではないか、というのです。

京には全国から富と物資が集まってくるので、酒屋や倉庫に課税しても大きな額が取れます。足利政権は京に経済的に依存することで成り立っていたのです。今までこのように経済という視点から室町幕府を見る視点のものは読んだことがなかったので、この章は新鮮に感じました。

歴史学の価値とは何か

個人的に、この本の読みどころのひとつはあとがきにもあると思っています。実用性の薄い文系の学問はその存在意義を厳しく問われるようになってきていますが、本郷さんは歴史学の効用についてあとがきで考察しています。

本郷さんは歴史学の存在意義として、「むかし」を「いま」と比較することで「いま」の位相を明らかにすることだと考えていたそうです。そのために専門とする鎌倉時代中期と現代とを比較すれば事足りると思っていたわけです。しかし、実はそれこそが高踏的でタコツボ的なものだったのではないか、と本郷さんは反省しているのです。

では、どんな歴史学が必要なのか。自分の専門領域について紹介するだけでなく、もっと長いスパンで「日本史の流れ」を把握できるものが必要だ、と本郷さんは考えました。そしてこの本が生まれたわけです。

社会から存在意義を問われる以上、歴史学にも「わかりやすさ」は必要なのだと思いますし、私自身もそういう本を求めています。ただ、そういうものしか認められないなら学問自体がポピュリズム化していくのではないか、という懸念も感じます。歴史学者含め、文系の学者は生き残りのために世知辛い渡世を求められているようです。歴史学のみならず、世間とのかかわりの薄そうな学問が生き延びることの難しさを考えさせられるあとがきでした。