古代、奈良、平安、鎌倉、室町、戦国、江戸、幕末、明治……。日本史の転換点となった出来事や時代をつくった人物について、出口治明、本郷和人、伊東潤、鹿島茂、倉本一宏ら28人の執筆陣が最新の研究成果をもとに新たな論点を提示する一冊です。

平安貴族は忙しかった、足利尊氏は後醍醐天皇を尊敬していた……などなど、今まで信じられていた日本史の常識を新説で覆していく内容。

古代から明治時代にいたるまで、30以上の新説が紹介されているので、日本史に興味があるならどれかひとつくらいヒットするものがあると思います。

ここでは戦国時代の章から、黒田基樹さんの「北条氏政はバカ殿ではない」を紹介します。


北条氏政は、名君と言われた父・北条氏康とくらべて凡庸といわれがちな人物です。

ですが、黒田さんの解説によると、氏政は上杉謙信や武田信玄の侵攻から北条家の領土を守り抜いているのです。

また、氏政は城下をそっくり包み込む「惣構え」といわれる城郭作りをすすめています。惣構えは小田原攻めでも突破されなかった強固なもので、これが大阪城の作りにも影響を与えているのです。

父から譲り受けた領土を守り抜き、新たな拠点防衛の方法を考え出した氏政の手腕はなかなかなものといえるでしょう。

決して暗愚と呼ばれていい人物ではありません。


氏政が暗愚といわれがちなのは、結局彼の代で北条家が滅びてしまったからです。

そのきっかけとなったのが名胡桃城奪取ですが、黒田さんによればこれも当時の社会ではごく普通の対応だったのだそうです。

そもそも氏政は父から受け継いだ領国を維持したかったのであり、それができないなら滅亡しても構わないという立場だったのです。その意味では、氏政はむしろ戦国大名としての教示を最後まで貫いたともいえるでしょう。

家名存続を第一と考えるのは、あくまで江戸時代の価値観です。後世の価値観で氏政を裁くのはフェアとはいえません。「汁二杯」のエピソードも江戸時代に創作されたものであり、氏政の人物像を探る証拠にはなり得ません。

人物の評価は、あくまでその時代の価値観に沿ってなされるべきです。この本では、簡潔ながら戦国時代における北条氏政の実像について知ることができます。