これは世界史を本当の意味で理解したい、と思っている方には必読の一冊です。
この『そのとき、「お金」で歴史が動いた』を読むことで、こんなことがわかるようになります。
・なぜイギリスで産業革命が起き、中国や日本では起きなかったのか
・どうして命がけで金や銀を求める人達がいるのか
・ヒトラーは本当にドイツ経済を再生させたのか
・世界大恐慌はどうすれば防げたのか
・バブルが崩壊した後はなにをするべきか
歴史の勉強とは、退屈な史実の羅列、出来事の丸暗記と思われがちです。
ですが本当に大事なのは、「なぜそれが起きたのか」です。
歴史上の出来事がどんな要因で起きるのか、そこがみえてくると、がぜん歴史は面白くなってきます。
そして、歴史を動かす要因として見逃せないのは経済です。
この本では、経済と世界史を絡めつつ、「なぜ歴史はこの方向に動いたのか」を解きあかしていきます。
この解説が大変わかりやすく、するすると頭に入ってくるので、読みすすめるうちに世界史と経済の関係が理解できるしくみになっています。
ひとつの例として、「なぜイギリスで産業革命が起き、中国や日本では起きなかったのか」についてみていきましょう。
この本のpart3によると、その理由として、ロンドンは他地域とくらべて圧倒的に人件費が高かったことがあげられています。
人件費が高いので、機会を作って労働させ、人件費を節約する必要があったのです。
中国や日本では人口爆発が起きていて、低賃金で働く人材がたくさんいたので、機械を発明する必要はありませんでした。
このため、日本や中国では産業革命ではなく勤勉革命が起こりました。
安価な労働力を長時間働かせることで、どうにか経済成長をさせていたのです。
ではどうしてイギリスでは人口爆発が起きなかったのでしょうか?
この本では、まず小麦の生産性の低さを原因としてあげています。
小麦やライ麦はコメにくらべて生産性が低いので、そもそもヨーロッパでは人口爆発が起きにくいのです。
しかし、イギリスでも18世紀にはヨークシャー農法の普及により、人口は増えてきています。
にもかかわらず、労働者の賃金が高かったのは、イギリスから新大陸へ人が移動していたからなのです。
こうした背景があったため、イギリスでは産業革命が起きたと考えられるのです。
もちろん、イギリスで産業革命が起きた理由はこれだけではありません。
17世紀にはじまった金融市場の革新のため、低金利で莫大な資金を調達できたという事情もあります。
PART1を読むとわかりますが、イギリスは名誉革命以降、国債の金利が急落しています。
スチュアート朝時代のイギリスはしばしば債務不履行をおこなったため、金利は高かったのです。ですが名誉革命以降、オランダのすぐれた金融制度がイギリスにもちこまれ、イギリス政府は一度も金利と元金の支払いを遅らせることがなくなりました。
この結果、1690年には10%だった金利が1755年には2.74%にまで下がりました。
ライバル国では考えられないほど低い金利で資金調達ができるようになったのです。
名誉革命でオランダの金融制度をとりこめたのは、オランダの君主がイギリス国王を兼ねたからです。
このオランダのすごさについてもPART1で解説されています。
オランダは世界初の株式会社をつくった国ですが、これはこの国の地理的環境が関係しています。
オランダは海や沼地を干拓した土地が多く、ほとんどの州で荘園制度が発達しませんでした。
このため土地の売買が自由におこなわれ、そのなかで実用主義的な価値観が生まれてきます。
さらに16世紀末から独立戦争が続き、政府は海外進出を企てる余裕がなかったため、民間から資金を集める必要がありました。
こうして1143人の株主を集め、東インド会社が設立されることになったのです。
いかがでしょうか?
私はこの本を読んでいて、「こういう世界史の授業を受けてみたかった」と感じました。
高校のころこんなことを教えてくれる先生がいたら、もっと歴史が好きになっていたかもしれません。
今からでも遅くはありません。『そのとき、「お金」で歴史が動いた』を読めば、世界史と経済がリンクして、より歴史を深く理解することができます。
kindle unlimitedでは『そのとき、「お金」で歴史が動いた』が読み放題対象になっています。(2022年5月3日現在)